一般的なe-bikeのモーターは、モーターの動力をギア、シャフト、ベルト、プーリーなどのネットワークを介してクランクに伝達する。高速で動く多くの部品が互いに噛み合うということは、耳障りな高音のノイズが発生する機会が多いということである。
それに対してTQ HPR50のハーモニック・ピン・リング・モーターは、負荷が常に多くの歯で静かに分散される単一のギア・インターフェースのみである。
私たちは五感を使って自転車に乗っている。そして、あなたの車体が出す音は、ライディング体験に驚くほどの影響を与えるのだ。これまでe-bikeでは騒音というものを強いられてきたが、私たちはそれを受け入れることを学んできた。
TQ HPR50が、登場するまでは。
この記事では、自転車の音響学における科学的探求の旅へとご案内しよう。これはバイク性能におけるまったく新しいカテゴリーであり、おそらく皆さんが思う以上に重要なこととなる。
この記事の最後に、TQ HPR50は他の一般的なe-MTBよりも5倍快適で、1.8倍静かであることを示す。事実、TQモーターは電動アシストのない従来の自転車に近い音を奏でることで、バイクが走る本来のあり方を取り戻す。
疑っている? 詳細に入る前に、トレイルで人気の2台のe-MTBと比較したTQモーターのサンプル音をいくつか聞いて欲しい。ついに耳にも優しいe-bikeが登場した!
驚異的な耳
聴覚はおそらく最も優れた感覚であり、人の聴覚に匹敵するマイクを使用するには、極めて高度な科学が必要となる。
耳は、20から100,000,000マイクロパスカルを超える音圧振幅を感知できる。これは実に幅広い範囲である。1本の定規で紙の厚さから100階建てビルの高さまで測れるようなものだ。この広大な範囲に対応するため、通常、音はデシベル(dB)という単位で表現される。
耳は、20Hzから20,000Hzまでの音の周波数も感知できる。これもまたとても広い範囲である。耳に届く単一の圧力波には、周囲のあらゆる音源からのすべての周波数の組み合わせが含まれている。耳の螺旋状の蝸牛が、この複合的な圧力波をそれぞれの周波数に分離し、神経信号に変換していく。あなたの耳は、実にパワフルで魅力的な音センサーなのだ。
魅力的な音センサー音響心理学
耳から送られた神経信号は、音響分析スーパーコンピューターである脳によって解釈される。複数の音源をリアルタイムで分離し、その3次元における位置を正確に特定する(音源定位)ために必要な、奇跡的なほどの処理能力と精度を想像してみてほしい。脳はさらにこれら音のパターンを分析し、それに意味、感情、関連性を割り当てる。
音響心理学とは、耳と脳のシステムが音を感知し解釈する方法を研究する学問である。そしてマイクからの生データを、音量と音質の両面で音をどう知覚するのかを数値化する、音響心理学のさまざまな測定基準が開発されている。
知覚音量
人が持つ聴覚の感度は周波数帯域によって大きく異なる。例えば1,000Hzの75dBの音波は、100Hzの75dBの音波よりもはるかに大きく聞こえる。この感度の違いを説明する一般的な方法は、デシベル(dB)にA特性カーブを適用してA特性デシベル(dBA)へ変換することである。dBは音波の物理的な大きさを定義するが、dBAは同じ音波で人に知覚される大きさとほぼ一致するからだ。
単一のA特性カーブが開発されて以来、科学者は人の耳の複雑な仕組みをより完全に捉える、さらに完全な一連の「等ラウドネス曲線」を考案した。このグラフでは、線上にある2点の音は同じように大きく、各曲線はその下の曲線と比較してほぼ2倍の大きさとなっている。もし人の耳がマイクと同じように機能するなら、これら曲線の感覚はすべて平行に等間隔となるはずだ。
このチャートでは音量を測ったソーン(音量の単位)も紹介されている。これはdBAと同じ目的のものを示すが、より洗練され直感的である。ソーンは知覚される音量に直接比例する(音量が2倍ならソーンも2倍となる)が、dBAは直感的ではない(音量が2倍なら10dBを足す)。
音質
良い音と悪い音とを区別する際、脳が判断するのは多くの場合において音量ではなく音質である。例えば、蚊の出す高音は比較的静かだが、非常に不快で周囲の音をかき消して注意を引く。エンジニアはこの種の音を「トーナル(音調的)」と表現するが、私たちの脳は、「ガラガラ」「キーキー」「ミシミシ」「ゴロゴロ」といった多くの音のパターンをカテゴリーに分類して解釈できる。
脳が行うこれらの解釈の多くは、マイクに入力されたデータから、音調、シャープネス、ラフネス、プロミネンス比、変動強度、明瞭度といった音質測定基準を使用して数値化できる。これらの測定基準は、製品の品質や性能に対する印象とともに、その製品を使用した際の満足度を予測する材料ともなる。
なお音質に関する興味深い例として、自動車のドアが閉まる際の音に、多大なエンジニアリングの努力が注ぎ込まれていることがある。この音は自動車の主要機能としては二の次だが、自動車の丈夫さや信頼性に対する最初の印象を大きく左右する。
e-bikeの音響心理学
では、これが自転車とどう関係するのか? 数年にわたって自転車音響心理学のパイオニアとして研究を続けてきたTrekパフォーマンスリサーチは、自転車の音質こそがライドの楽しさに大きな影響を与え、ときに音量よりも重要な場合もあることを発見した。e-MTBに関しては、私たちは音質を測る2つの指標、すなわち「音調」と「明瞭度」に注目した。
音調
電動モーターは、特に不快に感じられる高音を発する傾向がある。蚊の例と同じように、e-bikeのモーターがうなる音は、その状況の中で敏感にあなたの注意を引く。
音調(特に音調HMS)は、この種の不快な音に対する人の知覚を、先進的なアルゴリズムを組み合わせて使い正確にモデル化する、最新の音質評価基準である。私たちは、音調はe-bikeに乗るライダーが体験する重要で新しい指標であると信じている。
音調HMSの計算では、耳と脳のシステムが不快な音を感知する仕組みをモデル化するために、14のアルゴリズムからなる複雑なシーケンスを使用する(ECMA-74:2019規格より)。
明瞭度
友人や家族とサイクリングを楽しむ上で重要なのは、おしゃべりしたり、新しいスキルを教え合ったり、新しいトレイルを案内し合ったりすることだ。しかしトレイルで聞こえるさまざまな音 – e-bikeのモーター音も含む – が、他の人の話を聞く能力を妨げてしまう可能性がある。明瞭度とは、聞き取れる音声の割合を予測する音質指標であるため、騒音がグループライドの体験を損なう可能性を示す良い指標となる。
明瞭度について学ぶツールと知識
心理音響学は、サイクリングにおける新しく挑戦的な科学分野であり、ライド体験に大きな違いをもたらす。Trekが自転車における心理音響測定ツールとその知識を開発したことは、科学を通じてライド体験を向上させるというTrekの取り組みを反映している。Trekのエンジニアリングを利用すれば、これまでに確立された振動能力と知識に加え、今ではバイクで感じられるものすべてを測定、理解し、設計することができる。
ラボにあるMadone IsoSpeed
TQ HPR50の音響心理学
TQ HPR50は、e-bikeがどれほど静かで心地よい音を奏でられるかにおける革命的な存在だ。この事実は、車体のプロトタイプを造る段階で開発された、高度な音響心理学の試験結果と分析技術を用いて説明できる。このテストの集大成とは、可能な限り制御された音響環境である無響室で、販売されている車体を競わせることだった。
無響室で、TQ HPR50と、電動アシストのない自転車、人気の軽量e-MTB、人気のハイパワーe-MTBとを、音を出さない特別なローラー台に乗せて比較した。21個のマイク、そしてモーターの回転速度と音の周波数を測るケイデンスセンサーを2日間に渡って使用し、2億2500万のデータポイントを収集した。
これらのテストでは、自転車の音調、音量、音響パワーと明瞭度を、総出力300W、2段階のモーターアシストレベル、ケイデンス40~100rpmの範囲において分析した。すべてのチャートデータは、車体から横方向に1m、床から垂直方向に1.7mの位置(青で囲まれたヘッドの高さ)に設置されたB&K 4966-H-041マイクロフォンに基づいている。
実線は最大のアシストモード、破線は2番目に強いアシストモードである。音調はECMA-74:2019規格に基づき算出されている。
TQ HPR50の音量
音調はe-bikeでの体験を最もよく表すものではあるが、音量に関しても忘れてはいけない。下のグラフは、知覚音量をdBAとソーンズの両方で示している。車体と測定基準との組み合わせの選び方次第ではあるが、HPR50は他のe-bikeに比べて1.5~1.8倍静かで、電動アシストのない車体とほぼ同等である。
TQ HPR50の音響パワー
音量レベルは音響測定の重要な指標であるが、音源からマイクに向けた距離と方向に依存する。私たちは、最も重要なのは乗り手、または一緒に乗る人の耳に届く音であると考え、マイクの位置を決定した。
それに加え、12個のマイクを半球状に配置して、車体からあらゆる方向へ放出される音響エネルギーの総量を数値化する音響パワーの測定も行った。つまり音響パワーは、車体の音が車体周囲のあらゆる位置にいる聞き手へ、どう届いているかを表す。
グラフで示されているように、音響パワーは乗り手の頭部付近では音量と非常に似た値となっている。これは音量の結果と、単一マイクロフォン測定法の測定位置としてこの場所を選んだ適切さの両方を裏付けるものである。
TQ HPR50の明瞭度
前述の通り、自転車に乗っているときの音は、他人と会話する能力を妨げる可能性がある。明瞭度は、特定のノイズの中で聞き取れる音声の量を予測する。繰り返すが、HPR50は他のe-bikeよりも従来の自転車に近いので、トレイルでの会話の邪魔にならない。
フィールドテスト
この記事は管理された無響室でのテストに焦点を当てているが、確実な検証のため音響テスト機器をトレイルにも持ち込んだ。そのトレイルでの結果も一致しており、HPR50は他のe-MTBと比較して音調で3~5倍ほど低く、音量で1.5~1.8倍低いことが測定された。
カラーマップ分析
音量を分析する強力な手法として、ケイデンスと音の周波数とをスケールで色分けするというものがある。このカラーマップでは、それぞれの線は周波数(ピッチ)が回転数とともに増えていく音を表している。これらの音は、不快なものとして周囲を切り裂き注意を引く音である。
これらにある斜めの線は、モーター内の物理的に回転する部品に対応している。ギア比と歯数/磁石の数が線の傾きに関係するのだ。従来のe-bikeの駆動部には可動部品が多く、そのため多くの音が発生する。しかしFuel EXeのハーモニック・ピンリング・ギアははるかに静かな音のみをひとつだけ発生させている。